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 あての無い旅


 降臨してからの行動、ここでも神武東征とニニギの降臨は際立った対照を見せる。神武の行動は戦略性が明瞭であるが、ニニギの旅にはそれが何も無い。

 まずは神武の方である。神武の行動は分かりやすい。彼は大軍団を率い、途中で珍彦というガイドも得て、万全の態勢で大和を目指す。大和にはナガスネヒコがいる。彼は神武が自分の国を奪いに来たと考える。事実そうである。そして戦争になる。その緒戦で神武は手ひどく負けるが、正面突破は無理と判断して、裏から廻って結局は大和を平定する。
 それがそのまま史実であるかどうかはともかく、このストーリーの意味するところは明快である。神武東征とは征服戦争であり、それに対するナガスネヒコの取るべき道は降伏するか戦うか二つに一つである。彼は戦う道を選び、結果的には武運つたなく敗れたが、こうした征服戦争は後の歴史の中にも無数に類例が見つかる。

 一方のニニギ。正史によれば降臨したニニギは辺境の荒地を「国を求めて」「あてもなく」歩いたという。やはり、神武の行動とは全く違う。
 神武の場合、目的地はハッキリしている。正面からは無理だから後に廻るといった戦術的な迂回は別にして、ともかく神武は真っ直ぐ大和を目指している。自分がどこに行きたいのか知っている。
 しかし、ニニギはそうではなかったらしい。明確な目的地は無く、ウィンドーショッピングのように良い国がないかと探し歩いて、そして辿り着いた所が吾田である。葦原中国の王になる為に降臨したはずなのに目的地すらはっきりしないというのも妙な話である。その吾田に着いた時の様子を『日本書紀』の本文は次のように伝えている。

 膂宍の空国(荒れてやせた国)を、頓丘(ひたお:丘つづき)のところを行去り国覓(くにまぎ:国を求めること)のために歩かれて、吾田の長屋の笠狭碕に到着された。
 その地に一人の人がいて、自分から事勝国勝長狭と名のった。そこで皇孫が、
 「国があるかないか」
 と尋ねられると、
 「ここに国がございます。どうかごゆっくりお遊びくださいませ。」
 とお答え申し上げた。それで皇孫はここに御滞在なされたのである。

 ニニギの旅はこうして吾田の地で終わるが、神武東征と比べてみればその違いは際立っている。神武が目指した大和は日本を統治するのに好都合な地である。日本の中心である。しかし、ニニギの到着した吾田は地の果てのような所であり、日本を統治するのに適地だったとはとても言えない。
 神武は明確に大和を目指していたが、一方のニニギは積極的に吾田を目指してきたわけではない。あてもなく流れ歩いて、気がついたら最果ての吾田の地に立っていたという印象である。この吾田の地に戦略性が感じられないのも当然のことなのであろう。なにしろ、ニニギ自身、この地に着いた時そこに「国が有るか無いか」すら知らなかったというのである。これが戦略行動だったはずもない。
 神武は侵略者として大和に現れた。どうしても欲しい地であるから、それを奪う為には敢えて戦いも辞さないというのも分かる。戦国の世を統一した人は皆こうである。しかし、ニニギはまるで違っていたらしい。ここではニニギは客人である。大和のナガスネヒコは神武と戦って滅びたが、吾田の事勝国勝長狭はまるでニニギのパトロンのような印象である。

 要は冒頭に書いた通り、神武東征は首尾一貫して戦略性が明瞭であるがニニギの降臨は終始一貫して戦略性が無い。元々その目的地からしてオシホミミが尻込みしたオドロオドロしい世界で、降臨したニニギはその辺境の荒地を「国を求めて」「あてもなく」歩いた。そして最終的に辿り着いたのが、そこに国が有るのか無いのかすら分からないような最果ての吾田の地である。
 吾田の事勝国勝長狭がニニギに親切なのは、ナガスネヒコと違って「自分の国を奪いに来た」と思わなかったからであろう。彼から見てニニギは別に脅威ではなかったということらしい。実際、ニニギは彼の国を奪おうなどとは考えもせず、彼の好意に甘えて、彼の所の居候になった。どうも「どこか他所から支配者がやって来た」といったイメージとはまるで違うようである。

 ここまで見てきただけでも神武東征とニニギの降臨は全く対照的であるが、更にこの他にも、この二つの伝説には際立った対照が有る。
 神武は大軍団を率いて東征した。征服戦争であるからこれは当然のことである。一方のニニギは本当に軍団を率いていたのかどうか。(B)グループの伝承はそのように伝えているのだが、(B)グループの他の伝承要素と同じく実はこれがまるで怪しい。まあ、そのこと自体は前に(A)(B)二つの伝承群をチェックしてみた結果からも或る程度は予想されることではあるが、このことの中に吾田に向かったニニギの事情を考えるヒントが有るように思うのである。

 
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